『新校本宮澤賢治全集・第14巻』掲載の
書簡252a,252b,252c は、【あて名不明】の下書きであり、
昭和52年発行の校本によって初めて
高瀬露宛てと判断されたものです。

252aには他に5点,252cには他に15点の比較的短い下書き群があり
本文とされたものと合わせると計22点にも及びます。

しかし、私はこれらの下書きが、「高瀬露あて」と断定されていることに
大いに疑問を持っています。

新校本に於いてもこれらは、
「内容的に高瀬あてであることが判然としている」と書かれているだけで
その根拠はひとつも述べられてはいません。

これはいったい、どういうことでしょう。

これまでの研究家や賢治を直接知っていた人々の話によって
伝えられてきたことと照らしあわせて判断した、というのなら
それは『校本』としては、あまりにも無責任なことではないでしょうか。

今日よく知られている高瀬露像が、
まったく根拠のない、造られたものであることは
上田哲氏によって詳しく検証されています。
(「図録・宮澤賢治」「七尾論叢11号」)

私が、抱く疑問のひとつに
書簡下書きに「法華経の信者」という言葉があることです。
高瀬露は生涯、クリスチャンだったはずです。
仮に露が、賢治と信じるものを同じにしたい、と思ってのことであれば
露が後々にも賢治を慕い続けたことから考えると
とうにクリスチャンであることをやめ、法華経に帰依していたはずです。

それから、羅須地人協会に出入りした女性は
なにも高瀬露一人ではなかったでしょう。
小学校の先生、ということであれば
賢治が嘉藤治とやっていた楽団のメンバー木村圭一氏の妹も
小学校の先生をしていました。
賢治の知り合いの小学校の先生は高瀬露ひとりでしたか。
そんなことはないでしょう。
ちなみに、賢治が有名になった後、
誰々は賢治に結婚をほのめかされた、という話しがあちこちにあります。
笑ってしまいます。

仮に、これらの下書きが
高瀬露に対してのものだったと仮定しても、
賢治は誠実に丁寧に、言葉をえらんで真剣に手紙を書いています。
これはとうてい、森氏の言うような
「押しかけ女房」的な振る舞いをし、
賢治にさんざん迷惑をかけあげくに
押入に隠れられたり
顔に墨を塗り「ライ病」と偽られたりした人間に対して書くような内容とは思われません。
それだけでも、そういった事実はなかった、というような気がしてなりません。

「図説・宮澤賢治」にあるように、高橋慶吾が高瀬に対して少し悪口を言ったことを受けて
森惣一氏がまるで自分が見ていたかのように粉飾・ねつ造したのだと私も思います。
高橋慶吾は、後年、高瀬露が賢治の悪口をふれ回ったということはない、と
はっきり言ったそうです。

関登久也氏に於いては賢治の親戚であり、おそらく
万が一にもクリスチャンに嫁に来てもらっては困る、というような
親族としての立場から、高瀬を遠ざけるとか、嫌う、といったことが
あったような気がしてなりません。

もっとも、不可解なのは、露と同級生だったという関氏の妻までもが
一緒になって高瀬露に不利な証言をしているということです。
「露が自分に賢治の悪口を言った」というものですが
私が推測するに
確かに露は関の妻ナヲに賢治のことを話しただろうと思います。
でも、それは決して「中傷」などではなく
賢治に理解してもらえなかった=(たとえば、高橋慶吾に宛てた手紙にあったようにもうひとりで来てはいけないといわれたようなこと)=
という悲しみ、淋しさといったような気持ちを知ってもらいたくて、
かつての友人であったナヲにこぼしたのだろうと思います。
それをナヲが、「露が賢治のことを責めた」と誤解したのではないでしょうか。

下根子桜の廻りでたった噂ばなしがまわりまわって賢治の親族や友人の耳に入った、
それは露が賢治の悪口を言いふらしているからだと思いこんだ人間が
賢治の耳にもそれを入れた・・・・
そういうことは充分ありうると思います。

ひとは、思いこんでしまうとそういう風にしか見えなくなります。
露は賢治を憎んでいる、中傷して回るような人間だ、と思いみ、
またそういう人の言うことを信じた(賢治を含めてです!)者たちが
造り上げた『悪女である高瀬露』が
後々まで生き続けてしまった、ということなのではないのでしょうか。

とても恐ろしく、悲しく、惨いことだと
私は思います。

そして賢治を尊敬し慕い続けながら
それらを、おそらくたった一人で胸にしまって、
いっさい公に弁解することもなく生涯を終えた露のことを考えると
私は身を切られるような思いがします。
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by signaless5 | 2009-08-25 08:30 | 思うこと

ご無沙汰しました

しばらくブログのアップが疎かになってしまい、
気がついたら一ヶ月以上、休んでしまっていました。

じつは急いでやらなければならないことがあり、
どうもそっちのほうにかかりっきりになってしまいました。

もしかしてご心配して頂いた方がおありでしたら
申し訳ありませんでした。

これでようやく一段落しましたので
ブログもぼちぼち書けると思います。

よろしくお願いします~m(_ _)m
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by signaless5 | 2009-08-23 16:36 | 思うこと