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トシと自省録

賢治の妹、トシもまた「聖女」とされたうちの一人でしょう。

幼少時から兄賢治よりもよくでき、
優しくて兄思いの理想の女性のように扱われてきました。

家の中で、賢治の宗教=法華経を理解する「たったひとりのみちづれ」であり
まさに賢治の理想の女性であった、と。

自分が旅立つその時に於いても
兄や家族のことを気遣い、
けなげにふるまい続けた素晴らしい女性・・・。

たしかにそのとおりかもしれません。
しかし、聖女として崇められるトシはやはり
つかみ所のない、まるでお人形のような印象しかありませんでした。

聖なる賢治の妹は
同じように聖なる女性でなければいけなかったのでしょうか。


私がトシを、私たちと同じ血の通った一人の女性だと認識できたのは、
彼女自身がのこした「自省録」のお陰でした。

深い悩みと苦しみ、そして悲しみ。
そして深く深く、己を見つめる目。

これを母である賢治の末の妹クニさんの遺品のなかから見つけ
著書「伯父は賢治」で発表した宮沢淳郎さんは
『そえがき』のなかでこう書いています。

 《新資料公表にともなう弊害が予想されないでもない。その最たるものは、トシのイメージが崩れることである。伝記を見る限り、賢治を上回るほどの能力を持っていたと受けとられかねない神秘の女性のトシは、実はふつうの女子大生なみの文章を書く人間だったと分かって、あるいは失望する読者がいるかも知れない。少なくとも筆者はその口であった。》

果たしてそうでしょうか。
私はまったく逆だと思うのです。

菅原千恵子さんも、「宮沢賢治・15号(洋々社)」に寄せた文章「トシの『自省録』を通して見えたきたもの」にこれらのことを詳しく書かれています。
 《失望どころか、私はトシという女性に強く心を動かされただけでなく、それまで人形のようだったトシが、実は激しく強靱な意志と近代的な自我を持った女性であることにむしろおどろかされたのだった。》
私も、まったくそのとおりだと思います。

トシが、心ない誹謗中傷や裏切りに傷つき
逃れるように東京に出て日本女子大に入学したこと、
そこでも様々な悩みを持ち、
頼れるのは兄だけだと毎週のように手紙のやりとりをしたこと、など
これまで不自然に思われてきたことすべてに合点がいきます。

悩み苦しみながら自分を律し、
進むべき道を切り開こうと必死で努力していた姿こそが
真の「宮澤トシ」ではないでしょうか。

決して聖女でも菩薩でもない、一人の人間としてのトシは
失望どころか、兄賢治と同じように、地上に降りて初めて
心を添わせることのできる、心から共感できる女性となって現れたのです。



しかし、姉の遺した「自省録」を
末の妹に託したのはいったい誰だったでのしょうか。
母?賢治?それともトシ自身・・・?

亡き姉の魂の軌跡、
一人の女性としての真摯な生き様を伝えることによって
若い妹の心の糧となり、力となることを
強く願ってのことに違いないと思うのです。

男性である淳郎さんには、果たしてその事が
どこまでおわかりになられていたかは解りませんが
同じ女性(一応)である私にとっては、
このことも非常に感慨深いことです。
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by signaless5 | 2009-07-13 17:48 | トシ