2010年 03月 29日
好きなフレーズ〈1〉
x はねえ、
顔の茶いろな子猫でさぁ
y の方はさ、
y の方はさ
自転車の前のラムプだとさぁ……
日常のふとした拍子に
賢治の詩が 頭に浮かぶことがあります。
そのような
印象に残っているフレーズ、好きなフレーズを
ときどき、思いつくまま挙げてみようと思っています。
まずは私の大好きなこのフレーズのある詩から。
1928,6,19の日付のある
「神田の夜」 という作品です。
雨降る夜に騒然とした都会のなかで
詩人はひとり幻想の世界に遊ぶ・・・
数式に子猫の顔や自転車のランプを当ててしまうなんて!!
今でこそナンセンスは広く理解されますが
当時において、この賢治のアバンギャルドはいったい
どこから来たのでしょうか。
なんて素敵!とため息がでそう。
賢治の淋しさと街の色とりどりの光が夜と雨に溶け合い
なんとも甘い感傷・・・が私の胸にひろがるのです。
神田の夜
一九二八、六、一九、
十二時過ぎれば稲びかり
労れた電車は結束をして
遠くの車庫に帰ってしまひ
雲の向ふであるひははるかな南の方で
口に巨きなラッパをあてた
グッタペルカのライオンが
ビールが四樽売れたと吠える
……赤い牡丹の更沙染
冴え冴え燃えるネオン燈
白鳥の頸 睡蓮(ロトス)の火
雲にはるかな希望をのせて
いまふくよかにねむる少年……
雲の向ふでまたけたたましくベルが鳴る
ベルがはげしく鳴るけれども
それも間もなくねむってしまひ
睡らないのは
重量菓子屋の裏二階
薄明 自働車運転手らの黄いろな巣
店ではつめたいガラスのなかで
残りの青く澱んだ葛の餅もひかれば
アスティルベの穂もさびしく枯れる
x八乗マイナスyの八乗をぼくが分解したらばさ
残りが消えてxマイナスyが12になったので
すぐ前の式から解いたらさ
xはねえ、
顔の茶いろな子猫でさぁ
yの方はさ、
yの方はさ
自転車の前のラムプだとさぁ……
いなづまがさし
雨がきらきらひかってふれば
ペーヴメントも
道路工事の車もぬれる
……そらは火照りの
そらは火照りの……
(二十年后の日本の智識階級は
いったいどこにゐるのであらう)
Are you all stop here?
said the gray rat.
I don't know.
said Grip.
Gray rat = is equal to Shuzo Takata
Grip equal......
Grip なんかどうしてとてもぼくだけでない
さうです夜は
水色の水が鉛管の中へつまってゐるのです
ぼくとこの先生がさぁ
日本語のなかで英語を云ふときは
カナで書くやうごくおだやかに発音するとさう云ってたよ
湯屋では何か
アラビヤ風の巨きな魔法がされてゐて
夜中の湯気が行きどこもなく立ってゐる
シャッツはみんな袖のせまいのだけなんだよう
日活館で田中がタクトをふってゐる
by signaless5
| 2010-03-29 21:32
| 詩